ウクライナ人が語るボルシチの知られざる5つの面白い事実

こんにちは、ウクライナ出身のクリスティーナです。 今日は、多くの方に愛され続けるボルシチの、知られざる事実5選をご紹介します。

ボルシチの知られざる事実4選

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ボルシチの起源

ボルシチは、一年や一日で誕生した料理ではありません。ウクライナの歴史を物語りながら、時代を経てさまざまな変容を遂げ、ウクライナ人の精神を映し出してきた存在です。 一般には、ボルシチはキエフ・ルーシ(9~13世紀)の時代から作られてきたと言われていますが、その証拠は科学的には確認されていません。ちなみに、ビートは古代から食用とされていましたが、当時は苦かった根ではなく、葉だけが利用されていたのです。 また、甘くて丸く赤い根を持つビートの品種は、約12世紀に現れ、16世紀頃に東ヨーロッパへ広がりました。

なぜ「ボルシチ」と呼ぶのか?

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多くの人は、ボルシチの名称が主な材料であるビーツに由来すると考えがちですが、歴史的事実はこれを支持していません。どの言語学者も「ボルシチ」という語を直接「ビーツ」から導くことはできないのです。 別の説では、「ボルシチ」という名前は、かつて料理に使用され、発酵させたボルシチヴニクに由来するといいます。ただし、ここで言うボルシチヴニク(ハナウド属は、現在知られている有毒な種類ではなく、その葉を発酵食品として利用していたもので、これはあくまで一つの理論にすぎません。 中世ヨーロッパの料理研究者によれば、ボルシチヴニク(ラテン語:Heracleum)は、根を煮込んだ肉料理に使われ、茎、葉、花の傘状の部分は発酵させ、その発酵液で液状の料理を作っていた記録もあります。しかし、これが現在私たちが食べているボルシチかどうかは疑問が残ります。

王族、ヘトマン、貴族のためのボルシチ

そのシンプルな外見にもかかわらず、ボルシチは決して庶民だけの安い食事ではありませんでした。ウクライナの歴史的記録から、貴族の間で作られていたレシピが残っており、当時の宮廷料理としても供されたことが確認されています。 たとえば、1682年にオレクサンドル・リュボミルスキー公の宮廷料理長、スタニスラフ・チェルネツキーの書籍には、レモン風味のボルシチや、乾燥、燻製、新鮮な魚と発酵ライ麦カヴスで作る王族ボルシチのレシピが記されています。 また、1686年頃のラジヴィウ家の宮廷レシピ集には、ボルシチヴニクをすりつぶし、ケシの実や挽いたアーモンドを加えた、菜食ボルシチの作り方が紹介されています。この時代、ボルシチはバロックな趣向に合わせ「偽物の卵」として、細かく刻んだパイクの肉をサフランで彩り、卵形に整えるなど、非常に洗練された料理として楽しまれていました。 こうした例からも、ボルシチは貧者だけの料理ではなく、道端のカフェから高級レストランに至るまで、幅広い層に支持される料理であることが分かります。

本物のボルシチとは?

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「ボルシチ」と聞くと、多くのウクライナ人は、骨付き肉、キャベツ、ジャガイモ、ビート、サワークリーム、そしてガーリックパンプシカといった、赤くてリッチな料理を思い浮かべます。しかし、ウクライナでは人によってボルシチのイメージは異なり、さまざまなバリエーションが存在しています。 たとえば、ギャリツィア風の透明なボルシチはビートのカヴスを使い、キノコとプルーンが詰められた「ウシュカ」(耳の形のダンプリング)が添えられるものや、ライ麦、オーツ麦、小麦粉を使った発酵ボルシチ、南部スタイルのトマト入りボルシチ(ビートなし)、緑のソレルやイラクティ風、さらにはミルクベースの白いボルシチなど、その種類は本当に多岐にわたります。 つまり、ボルシチは定まったレシピがあるわけではなく、数百もの変種と調理法が存在し、現代に至るまで進化し続けている料理なのです。

ボルシチの秘密のレシピ

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ウクライナ料理の普及と現代化に努める料理専門家、エフゲニー・クロポテンコは、唯一の正しいボルシチレシピというものは存在しないと語ります。しかし、彼の見解では、ボルシチには以下の4つの基本要素が必要とされています。

  1. ほのかな甘味 砂糖や、ザカルパッチアではリクワールのような果物のジャム、アプリコット、乾燥リンゴやナシが加えられ、ほのかな甘さが出されます。

  2. 酸味 現在は、酢、レモン汁、漬物にしたリンゴやキャベツが使われていますが、伝統的にはビートのカヴスが酸味のために用いられていました。

  3. ビートのフレッシュさ クロポテンコは、いつもビートのフレッシュジュースを作ることを勧めています。揚げる必要がなく、新鮮なビートは濃厚で、理想的な色と風味を与えてくれるのです。

  4. 料理を作る人の温かさ そして、最後に最も大切なのは「人」です。ボルシチは、調理する人がその温かさと笑顔を込めることで、本物のウクライナの味となるのです。

また、専門家は「完璧なボルシチの色はカーミン。これは色名でもあり、かつてウシヴァンカ(伝統刺繍衣装)の染料として使われた色でもある」とも述べています。

今日では、トマトが定番の追加材料として使われますが、地域によっては、ポリシェではクランベリー、ポディリヤでは燻製したナシやスモモ、リウヴェンでは「キシリツィ」が使われるなど、季節や地域に応じたさまざまな食材が採用されています。

ボルシチはどこの料理?

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料理研究家や食文化の研究者も口を揃えて言いますが、ボルシチはウクライナ料理です。レシピの普及状況をみると、この料理はリトアニア大公国と定住地帯という、2つの重要な歴史的背景が重なった地域で形成されたものだと考えられています。実際、ウクライナ、ポーランド、リトアニア、そしてベラルーシの一部で、ボルシチは歴史ある料理の一つとして位置づけられています。

また、モスクワやその後のロシアにおいては、文化的および強制的な移住の波、たとえばシーチ崩壊後のコサックの移動とともに、ボルシチが「輸入」された経緯があります。

 

ボルシチの多様性は、まさにウクライナの領土で培われたものであり、ウクライナの日常の儀式においても広い儀式的意義を持ち、フォークロアでも頻繁に言及されています。

こうしてウクライナから発信されたボルシチは、世界各国の料理伝統に根付き、広く愛されるようになったのです。

 

まとめ

ボルシチは、ウクライナの歴史と文化を象徴する料理です。単なるシンプルな家庭料理ではなく、王族・貴族の食卓を彩った豪華な一品でもあり、また数百ものバリエーションが存在することで進化を続けています。さらに、ビートの新鮮さ、ほのかな甘味と酸味、そして料理人の温かい心が、ボルシチを唯一無二のウクライナ料理へと昇華させています。 ウクライナから世界へと伝わるボルシチの奥深い魅力を、ぜひ楽しんでみてください。

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